『平家物語』によると・・・
この二つの太刀は、源満仲が作らせたもの。
作ったのは異国から渡ってきた鉄細工の職人で、八幡大菩薩のお告げによって鍛え上げられたようです。
長さは二尺七寸（約８９cm）。
罪人を試し切りした際に、一つは髭まで切れたので「髭切」と名付けられ、もう一つは膝まで切れたので「膝丸」と名付けられました。
～源頼光の代～
「髭切」は、源頼光の四天王の一人渡辺綱が所持し、一条戻橋で鬼女の腕を切り落としたことから「鬼切」と改められます。
「膝丸」は、頼光が土蜘蛛を退治したことで「蜘蛛切」と改められます。
～源為義の代～
その後、二つの太刀は、源頼基・源頼義・源義家を経て源為義へと相伝されます。
源為義の代には、「髭切」は夜に獅子の鳴くような声で吠えたので「獅子ノ子」と改められ、「膝丸」は夜に蛇の泣くような声で吠えたので「吠丸」と改められます。
～膝丸（吠丸）が熊野別当行範に～
「吠丸」と名を変えた「膝丸」ですが、源為義は娘婿の熊野別当行範に引出物として譲ります。
しかし、行範は「自分が持つべきものではない」として熊野権現に奉納したのだそうです。
～「髭切」→「獅子ノ子」→「友切」～
源満仲から二つ一組として伝えられてきた「髭切」（獅子ノ子）と「膝丸」（吠丸）ですが、為義の代で離ればなれになりました。
為義は、「吠丸」の代わりに「獅子ノ子」そっくりの「小鳥」という太刀を作らせます。
「小鳥」は「獅子ノ子」より二分ばかり長かったようですが、ある時、二つの太刀を抜いて障子によりかからせて立てておくと、人も触らないのに二つの太刀が倒れて同じ長さになっていました。
為義が調べてみると、小鳥の先を見ても切られたり折られたりされた形跡はありません。
怪しんだ為義が柄を見ると茎（なかご・刀身の柄に被われる部分）が二分ほど切られていました。
これを「獅子ノ子」の仕業と考えた為義は、「獅子ノ子」を「友切」と改めます。
そして、「友切」と「小鳥」は源義朝に伝えられます。
～源頼朝に譲られた「友切」～
１１５９年（平治元年）に起こった平治の乱。
この合戦で源頼朝は初陣を果たします。
この時、父の義朝は「友切」を頼朝に譲りました。
しかし、平清盛に敗れ都落ちすることとなります。
八幡大菩薩の加護によって作られた「友切」があるのに何故負けるのか？
神に見放されてしまったのか？
と嘆く義朝の夢に八幡大菩薩が現れます。
八幡大菩薩は、
「我は汝を見捨てたわけではない。
髭切と膝丸は、我が満仲に与えた太刀。
当初の名のままであれば太刀の力も失せなかったものを、何度も名を変えたので、太刀の精も弱くなったのだ。
保元の乱で父の為義や弟らを斬ることになったのや、平治の乱で子らを失ったのは「友切」という名をつけたからだ。
昔の名に戻せば未来もある」
と告げました。
目覚めた義朝は、さっそく「髭切」と改めます。
～平家に渡った「小鳥」～
その後、義朝は尾張国野間で長田忠致の裏切に遭い、殺害されてしまいます。
義朝の首は京都で獄門にかけられますが、その首には「小鳥」が添えられていたそうです。
以来、「小鳥」は平家の太刀となりました。
～熱田神宮に預けられた「髭切」～
父の義朝とともに都落ちした頼朝は、途中で義朝一行とはぐれてしまったため助かりました。
「髭切」は頼朝が持っていましたが、そのうち捕えられてしまうだろうと考え、匿ってくれていた草野定康に頼んで、熱田神宮に預けています。
※頼朝の母由良御前は熱田神宮大宮司藤原季範の娘でした。
その後、頼朝は捕えられ、１１６０年（永暦元年）３月、伊豆国の蛭ヶ小島に流されます。
それから２０年後の１１８０年（治承４年）、頼朝はついに源氏再興の挙兵を果たします。
その時、熱田神宮から髭切を申し受けたのだそうです。
※髭切と名を改めても義朝は暗殺されましたが、頼朝は天下を取りました。
～源義経に渡った「膝丸」（吠丸）～
源為義の代で「髭切」と引き離された「膝丸」（吠丸）は、熊野権現にありましたが、１１８４年（寿永３年）１月、木曽義仲を破り一ノ谷へ向かう源義経に熊野別当湛増が「吠丸」を贈ります。
この時、義経は、熊野の春の山を出てきた太刀ということで「薄緑」に改めます（夏山は緑が深いが春は薄い。）。
「薄緑」を得てより、平家に従っていた山陰・山陽や南海・西海の輩が源氏に付き、２月７日には一ノ谷の戦いで平家軍を敗走させ、翌年２月の屋島の戦いでも平家軍は敗走、３月２４日には壇ノ浦の戦いで平家を滅亡させることができました。
～箱根権現に奉納された「薄緑」～
源平合戦で活躍し、鎌倉に凱旋しようとした源義経でしたが・・・
梶原景時の讒言で兄頼朝と不仲となって鎌倉へは入れられず、腰越に逗留して起請文を書くも力及ばず、空しく都に上る途中で箱根権現を参拝します。
「兄弟の仲和らげしめ給へ」と祈願した義経は「薄緑」を奉納しました。
その後の義経の不幸は、薄緑を手放したからなのだとか・・・
～曽我兄弟が仇討ちに使った「薄緑」～
１１９３年（建久４年）５月、源頼朝は富士裾野の巻狩りを催します。
この時に起こったのが曽我兄弟の仇討事件でした。
曽我兄弟が工藤祐経を討つときに使われたのが義経が箱根権現に奉納した「薄緑」。
太刀の威光で、その名を日本五畿七道に名をあげたました。
その後、薄緑は源頼朝の手に。
源為義の代で離ればなれになった二つの太刀が再び一組になったのでした。
